――これは、フラートの調査団が孤島の遺跡で壁画と魔法陣を発掘するまでの物語である――
王城にある小さいが豪華な装飾のある一室で、黒に近い深紫色の髪の女が答えた。
???「わかりました。ではそのように致します」
陸を離れて数日後、自由都市フラートから出航した中型の帆船は、激しい嵐に見舞われながらも、無事、孤島ナーヴルへ到着した。
ナーブルとは、月語で<闇>を意味する。
調査団の中でその名の由来を知っているのは、月語を理解できるワーグナ博士だけである。
博士「確かに、この一帯だけ雲が厚いようじゃ。ナーヴル、闇の孤島か」
<ステータス>
名前: トーン・ワーグナ
年齢性別: 54歳男性
クラス: 考古学者
備考: 通称「博士」。身長166cm。細身だが弱々しくはない。白髪で黒いローブを着ている。
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ヴァティ「嵐が去ったぞ、みんな外を見ろ、目的の孤島だ!」
船内の調査団メンバーに、調査団隊長ヴァティ・フォルドが声をかけた。
<ステータス>
名前: ヴァティ・フォルド
年齢性別: 26歳男性
クラス: ウォーリア
備考: 調査団隊長。身長186cm。フラート傭兵軍の中隊長。がっちりした体型。髪と瞳の色はブラウン。
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十数日前……
ワーグナ博士は孤島に関する文献や、近頃、孤島で目撃されている魔物の情報を集め、フラート政府へ提出。
フラートの指導者イアは、直ちに孤島を調査するようワーグナ博士に命じた。極秘裏に調べよと。
自由都市フラートとは、本国フォムネシアから独立し、自由な貿易を許された都市国家群である。
政治の中核はジィアロス王による王政だが、国の統治に無関心な王は、内政を指導者イアに任せていた。
軍略好きな王は軍事と外交に力を注いでおり、傭兵の派遣業はフラートの財政基盤となっている。
その傭兵達が訓練している王都の訓練所で、博士は自身の手足となって動いてくれる調査団の隊長ヴァティと出会う。
ヴァティ「なんだい爺さん、こんなところに用事か?」
博士「いやちょっと尋ねたいことがあってな」
ヴァティ「こうみえても僕は忙しいんだ、用件は手短に」
博士「わしは考古学研究所所属のトーン・ワーグナ博士じゃ。君がヴァティ・フォルド君だね?」
名前を呼ばれた青年は少し狼狽えた。
ヴァティ「なんで僕の名前知ってるんだ爺さん。コウコ・・・ってなんだ?」
博士「なぁに、昔あった遺跡や歴史の研究をしている所で本ばかり読んでる年寄りさ。今日はきみに用事があってな」
ヴァティ「へぇ、なにやら偉そうな職についてるもんだ。用事ってのはなんだい?」
博士「きみ、冒険はしたいかね?」
冒険、という言葉にヴァティは胸を躍らせた。
ヴァティ「冒険・・・! 僕、冒険したいですよ! 毎日訓練ばっかりで飽きてたところなんだ。一体どんな所へ冒険に行くんだい?」
博士「ここで話すのはちょっと・・・ついてきなされ」
ヴァティは博士のあとをついて訓練所から離れた湿気の多い地下室へと誘われた。
特別な事情や極秘任務でのみ使用される場所だ。ヴァティは不安と好奇心をもって地下への階段を下りていった。
室内は4隅をランプの光で照らされていたが、やはり暗い場所だ。
ヴァティ「博士ってことは世の中のなんでも知ってるってことだろ? 頭いいんだな爺さん」
博士「まあ、なんでもって程じゃあないが、博士の名に恥じない程度には、な」
ワーグナ博士は任務の内容を手短に話すと、これまでの会話からヴァティをこう評価した。
丁度良い具合の手足を見つけた、と。
2人は他に5人の仲間を集め調査団を結成。
その後、貿易用の中型帆船で孤島ナーブルに到着した。
右目に眼帯をし、赤毛を腰まで伸ばした女シューターは気分悪そうに浜辺につけた小型船を下りる。
リルマーヤ「水が欲しい・・・」
<ステータス>
名前: リルマーヤ・リンツ
年齢性別: 23歳女性
クラス: シューター
備考: 身長164cm。傭兵軍ではヴァティと同じ隊に所属。幼少期の奇病で右目を失明し眼帯を付けている。髪と左目は緋色。
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四つん這いで喉の渇きに苦しみを覚えながら、島を見上げる。
嵐は去ったが、この辺りは年中雲に覆われ、辺りは薄暗い。
島には、紺色の葉がまばらに付いた木々が壁のようにそびえている。このような気候で一体どこから栄養を得ているのだろうか。
大陸では見たことのない不思議な光景だ。
リルマーヤの首筋に水の入った皮袋が触れた。
振り返ると、同じくシューターのジルドがいじわるそうに微笑していた。
ジルド「喉かわいてるみたいだな」
<ステータス>
名前: ジルド・フォルド
年齢性別: 22歳男性
クラス: シューター
備考: 身長176cm。隊長であるヴァティの弟だが、髪や目の色は兄と異なるゴールド。傭兵軍では兄とは別の隊に所属している。リルマーヤとは幼馴染。
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リルマーヤ「だって船内蒸し蒸ししてて汗だくになっちゃったんだから! お水いただき!」
さっとかわしたジルドは、皮袋を背後に隠した。
ジルド「その前に、条件がひとつ」
リルマーヤ「条件・・・?」
ジルド「おれとあのバカアニキ、ヴァティが兄弟だってことはずっと内緒にしておくこと」
リルマーヤ「あはっ、あなたも強情だね。この世にたった一人の血縁をそこまで拒絶することないんじゃないの?」
ジルド「年が4つしか違わねぇのに子供のころからアニキ風吹かせやがってああしろこうしろっていっつもうざかったんだよ! ヴァティとはただ同じ家で生まれただけって関係だ」
リルマーヤは笑いをこらえながら困り顔をして言った。
リルマーヤ「わかった、そうしとく。ほら、リルマーヤさんにお水頂戴」
……そんな中、ワーグナ博士は険しい眼差しで島の一点を見ていた。
博士は方位磁石をポケットから取り出し、方角を確認する。
博士「まずは北、だな。ここからならそう遠くないはずしゃ。調査団の皆さん頼みますぞ」
ヴァティ「わかりました博士、お任せください。みんな行くぞ!」
隊長の号令で、調査団一行は博士の示す方角へ歩み出した。
……島に入って半刻後。巨漢のウォーリア、タイカンが右目で太陽の光を遮りながら空を舞う奇怪なものを発見した。
タイカン「んー、ありゃーなんだろねーあれが魔物ってやつかなあ」
<ステータス>
名前: タイカン・ドルイム
年齢性別: 28歳男性
クラス: ウォーリア
備考: 身長194cm。傭兵軍ではヴァティやリルマーヤと同じ隊に所属している。パイナップル頭をした朗らかな巨漢。怪力だが鈍足。
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リルマーヤがタイカンの視線の先にあるものを凝視する。
リルマーヤ「吸血鳥が3匹! リーダー!」
ヴァティ「全員戦闘体制! 博士を守ることを最優先!」
博士「ふむ。野生の吸血鳥か、つまらん」
吸血鳥は、このあたりの島に生息している鳥獣で、魔物ではない。
地を歩く動物を上から襲い、喉元にくちばしを突き立てて血を吸う。
ヴァティ「前衛は守備を固め、シューターは構え!」
ジルドとリルマーヤが腰を下ろし、この任務の為に与えられた新型弓、スパイラルボウで狙いをつける。
吸血鳥は鷹のような姿だが、口から見える血の滲んだ牙はあきらかにただの鷹とは違うことを証明していた。
よほど飢えているのか目を血走らせて一直線に向かってくる。
リルマーヤ「スナイパー!」
ジルド「キラークロウズ!」
2本の矢が同時に飛び、同じ獲物に2本の矢が捻じりこむように突き刺さった。
ジルド「俺の獲物狙ってどうするんだよお前!」
リルマーヤ「こっちのセリフ! 貴重な矢が一本無駄になっちゃったじゃない!」
2人の餌食となった吸血鳥が断末魔の叫びをあげて墜落していった。残りの2匹は臆することなくヴァティ達との距離を詰めてくる。
タイカンが両手を広げて先頭に立った。
タイカン「私がおとりになる! 奴らが私の血を吸っている間に倒してくれ!」
アキノ「そんな無茶、しなくていい」
ヴァルキリーのアキノは、するっとタイカンの前に入って湾曲した長剣シュヴァイツァーと、短剣を抜いた。
<ステータス>
名前: アキノ・サーガラ
年齢性別: 24歳女性
クラス: ヴァルキリー
備考: 身長170cm。傭兵軍ではなくフリーの傭兵。ヴァティの隊と行動を共にすることが多い。冷静で寡黙。細見で美しい容姿。黒い眼と黒い髪。
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2匹の吸血鳥は大男から黒衣装のヴァルキリーへと狙いを変更し、傾斜の高い坂道を転がるように加速度を増す。
アキノは右手のシュヴァイツァーで1匹をまっぷたつにした。血しぶきが顔にかかる。しかし気にする様子もなく、もう1匹に左手の短剣を噛ませた。
アキノ「死ね」
アキノはそのまま左手を払い、獲物の下口から喉までを切り落とした。
博士「ほう」
ヴァティ「おおー、さすがだな、アキノ!」
リルマーヤ「アキノさんお見事!」
アキノは表情を変えず、2本の剣に付いた血を布でぬぐった。
博士の指し示す方向は西へ、東へと変わっていった。博士は何か書かれた古い羊皮紙を手に、ブツブツ言いながら歩いている。
太陽が西に傾き始めたころ、博士が大きく目を開けて前方の丘を指差した。
皆も息を飲む。
博士「・・・あれだな」
目的地、絶滅したはずの魔物がいると報告のあった遺跡。
周辺には不規則に並んだ模様付きの巨石群。丘の頂上には円状に12本の石柱が立てられ、その円の中心に長方形の石で組まれた入口が見える。入口まで進むと、中から臭気が漂い、調査団の鼻腔を刺激した。
ヴァティ「いよいよ、ですね」
博士「うむ。12の石柱、ここに間違いない」
ヴァティは振り返ってメンバー全員に号令をかけた。
ヴァティ「今から古代遺跡を探索する! 僕とタイカンとアキノは前列、ジルドとリルマーヤは後列の隊形をとって進む。博士を守るよう心がけて行動せよ」
エルザ「あの、私は?」
エルザ・ルック。ワーグナ博士の推薦で調査団のメンバーに入れた。行商人らしいが、ヴァティにはこの小さな娘が探索の役に立つのかわからなかった。
<ステータス>
名前: エルザ・ルック
年齢性別: 16歳女性
クラス: 行商人(?)
備考: 身長147cm。博士からの指名で調査団に合流。隙のない眼をしているが、笑うと純真な子供のようになる。髪は茶褐色。
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エルザは武器のようなものは持たず軽装の皮鎧を申し訳程度に着込んでいる。
ヴァティ「エルザか・・・、博士の隣で静かについてこい」
エルザ「・・・うん」
調査団のメンバーは博士を入れて7名、未知の魔物と戦う可能性もある危険な調査だが、極秘任務に大部隊は動かせない。
その為、博士やエルザを除く他の5名は、実力があり信頼できる者が選ばれている。
博士「どうしたエルザ、元気がないようじゃが」
エルザ「え、あ、うん。この遺跡・・・こんな匂い初めてだから、感が働かないっていうか、緊張してるのかも」
博士「ほう。おまえさんでも緊張するんじゃな」
前衛はヴァティ、後衛はジルドと博士が松明を持ち、暗い遺跡内を照らしながら少しずつ進んでいった。
独特の臭気が身体に纏わりつく。一行の息遣いや足音の他に、わずかだが水の流れる音も聞こえてきた。
博士「ヴァティは何やら楽しそうじゃのう」
ヴァティ「ええ。まさに冒険! って感じでさっきからワクワクしっぱなしです」
ジルド「はあ・・・」
ジルドはもっと緊張感持てよと、内心毒づいた。その時、突如、天井から物音がした。
ジルド「上だ!」
タイカン「ぬ。とうとう魔物のおでましか?」
リルマーヤ「よく見てごらんよ。コウモリも魔物に入る?」
タイカン「おっと、早とちりだったようだ」
タイカンは構えていた重剣クレイモアを素早く鞘に納め、飛んできたコウモリを手で捕まえて握りつぶした。
エルザ「うわぁ、気持ち悪い・・・」
タイカン「はは、小さなお嬢さんには心臓に悪かったか?」
エルザ「小さいのは関係ない! それにあんたがデカ過ぎるんだって」
タイカンは通路の隅にコウモリの死骸を放った。手を見ると緑色の液体が残っている。
タイカン「ははは。なぁヴァティ、コウモリの体液って緑色だったか・・・ぐぅ!」
手の痛みに顔をしかめるタイカン。慌てて裾で手をぬぐった。
ヴァティ「どうしたタイカン? コウモリの死骸に噛まれたか?」
タイカン「緑色の・・・液体が・・・」
博士「おーどれどれ、よく見せてみろ」
タイカンの手からこぼれた緑の液体が、地面に落ちて容量を増した。
ジルド「なんだこいつは!?」
博士「おお! こいつはスライム、下級の魔物じゃ。対処法は確か」
ワーグナ博士は松明で緑色の魔物に火をつけた。ぼおっと燃え上がり宙で音を立てて弾けた。
ヴァティ「なんだ、魔物ってそんな簡単に倒せるのか、楽勝じゃないの」
アキノ「・・・リーダー、前を」
アキノに言われて前方を振り返ったヴァティはそこで人影のようなものを見つけた。
それは人ではなく、人に似た二足歩行の毛むくじゃらの魔物だった。
博士「なんと! あれはゴブリンじゃ! ヴァティ、任せたぞ」
ヴァティ「ゴブリン!? おとぎ話でしか聞いたことのないやつが本当にいるだなんて・・・」
リルマーヤ「ヴァティ! 上!」
別の方向から飛び込んできたゴブリンが両手でヴァティを引っ掻いた。
顔に赤い線が走り、薄く血が流れる。ヴァティはとっさに後ろへ飛び退き距離をとっていた。他の前衛メンバーもゴブリンから離れる。
ヴァティ「ふぅ、危ない危ない。待ってたぞ、これが魔物か・・・いくぜ!」
ヴァティとタイカンは訓練通り同時にゴブリンに向かって剣を振った。タイカンのクレイモアはゴブリンに避けられたが、ヴァティのロングソードがゴブリンの左腕を僅かに掠めた。
その瞬間、ゴブリンの左腕が破裂する。ヴァティのスキル、ヴァスターによる衝撃波だ。
不気味な奇声をあげてゴブリンがよろめく。アキノが後ろからゴブリンの喉を貫き、ゴブリンは絶命した。
ヴァティ「はは、軽いもんだ」
博士「気を引き締めんか! 資料が正しければ今の奇声は群れをよぶ合図じゃ、ゴブリンの仲間たちがあちこちからくるぞ」
ヴァティ「は、はいっ! 一同、戦闘体制を作れ!」
ジルド「もうやってるよ!」
リルマーヤ「ジルド、後ろから来てる!構えて!」
ジルド「暗がりでよくわかんねぇ!」
リルマーヤ「私の隻眼は夜目だから」
リルマーヤは弓を引いて放った。さっきのに似た奇声がこだまする。
ジルド「命中したか? 片目なのにたいした腕だ」
リルマーヤ「私のスキル、スナイパーとフェルトブリーズだからね」
ジルド「なるほどな。おれも負けてらんねえ」
ジルドも弓を構え、叫び声のする方向へ矢を放つ。スパイラルボウによる回転とキラークロウズで強化された鏃がゴブリンの肉をえぐった。
アキノ「リーダー。前から足音。おそらく4体」
ヴァティ「よし、後ろはジルドたちにまかせて僕らは前の敵をやるぞ!」
ゴブリンの1匹が突進してきた。タイカンも体当たりで迎え撃つ。ハードブレスト。鋼の身体に弾かれ後ずさったゴブリンにヴァティが斬りかかる。
先程までの静寂が嘘のように暗い通路が戦場となった。アキノはヴァティが斬ったゴブリンの屍を踏み越えて次の敵に狙いを定める。
クリティカル発動。一撃で頭を粉砕されたゴブリンは赤黒い血を噴出しながら床に転がった。
リルマーヤ「後ろはもういないみたいよヴァティ」
ヴァティ「前にまだ2匹いる! 援護射撃頼む!」
リルマーヤ「了解!」
これまでより一回り大きな灰色のゴブリンが2匹、床をきしませながら近づいてくる。
博士「灰色、ホブゴブリンじゃ! 今までのより手ごわいぞ」
ヴァティ「手ごわいほうがやりごたえあるぜ!」
突然、ホブゴブリンはノロノロと後ろに下がった。すかさずアキノが踏み込む。しかし、ホブゴブリンはそれを待っていたかのような素早い動きでアキノに迫ると、そのままの勢いでアキノを横殴りにした。小さな悲鳴をあげて壁に叩きつけられるアキノ。
タイカン「アキノさんだいじょうぶ?」
ヴァティ「くそ! タイカン、盾になってくれ!」
タイカンがシールドスキルでホブゴブリンの拳を受け止めた。その隙をついてヴァティは脇腹にロングソードを突き刺す。ヴァティの顔に赤い汚物が吹きかかる。
リルマーヤは少しかがんで仲間に当たらないよう矢を放ち、のけぞっているホブゴブリンの首から脳天を撃ち抜いた。
ヴァティ「げほっげほっ・・・よし、あと1匹!」
壁に叩きつけられて軽く血を流しているアキノが立ち上がって体勢を整える。ヴァティと挟み撃ちのポジションだ。
ヴァティ「アキノ、挟撃だ!」
ヴァティとアキノは素早い動きでホブゴブリンを斬りつけた。毛の残った肉片が飛散し、生暖かい悪臭を放つ。タイカンは後ろからホブゴブリンの頭にしがみつき、首の骨を折った。
タイカン「全部、片付いた」
リルマーヤ「やったね!」
リルマーヤが手を叩いて鳴らそうとジルドに手を上げると、ジルドも面倒そうに手を上げてぴしゃりと打った。
ヴァティ「アキノ、傷の具合はどうだ?」
アキノ「・・・痛い。少し」
柱の後ろに隠れていたエルザがアキノに近づく。
エルザ「傷口に・・・、これ、どうぞ」
エルザは小さな瓶をアキノに手渡した。素直に受け取るアキノを見て緊張がほぐれたのか、エルザがこの島に来て初めての笑顔を見せた。
ヴァティ「なんだいそれ? 傷薬かい?」
エルザ「そのとおり〜、行商人ですからね。あ、アキノ、その傷薬15ゴールド、お代は帰ってからでいいよ」
アキノ「・・・わかった」
ジルド「おいおい、おまえも調査団の仲間だろ。薬くらいただであげろよ」
エルザ「べー。お金なくちゃ食べてけませんから」
やれやれ、とジルドは肩をすくめた。ふと後方に人の気配を感じ振り返ったが、暗闇に流れる水の音しか聞こえない。気のせいか。
リルマーヤ「どうしたの? ジルド」
ジルド「いや、何でもない。それよりエルザ、お前は薬を売るためにおれたちについてきてるのか?」
エルザ「別にそれだけしか取り柄ないわけじゃあないよ」
博士「ま、この子も何かと役に立つんだよ、わしも以前助けられてな」
リルマーヤ「へぇ、博士が。役に立つって例えば?」
エルザ「いろんなものを見つけたり、ね」
エルザは突然しゃがみこみ、床を両手でこすった。砂埃が舞い上がる。
エルザ「じゃじゃん。地下への階段発見!」
一同は感嘆の声をあげた。
タイカン「なんで! そんなところに隠し階段だと?」
エルザ「へへ。これが私のスキル、フォーチュン。昔からこういう怪しいとこに来ると、何かしら見つけちゃうんだ」
砂で覆われていた地下への階段は、鉄格子で閉じられていた。
タイカンが力づくで開けようとしたが固くてびくともしない。
エルザ「お兄さん、力だけでなんとかしようなんて無茶ですよーこういうときはね・・・」
エルザは鉄格子の鍵をじっとこらして見つめると、髪から小さな針金を取り出した。
エルザ「ここを曲げて・・・この中に突っ込めば・・・ほら開いた」
リルマーヤ「わっ、エルザったら器用ね! ほんとにただの行商人なの!?」
リルマーヤの言葉に、何故か博士が咳払いをするようにむせた。
ヴァティ「博士、この下の階へ行けば・・・」
博士「ん、ああ、恐らく、探していたものがみつかるわい」
一行は階段を下りて地下へとやってきた。
ヴァティ「魔物はまだいるかもしれん。みんな気を引き締めていこうぜ」
ヴァティは手を上げて全員についてくるよう促す。
通路は1本道で、時折右に折れたり左に折れたりしている。
ヴァティは壁をつたいながら歩いた。壁のところどころにある蒸した苔が、この場がずっと封じられていたことを物語っている。魔物がいる形跡は無い。
しばらく進んだところで通路は行き止まりになっていた。と思われたがヴァティが壁を触ると、そこが隠し扉であることに気づく。
ヴァティ「隠し扉だ・・・」
リルマーヤ「はい、こんなときは」
エルザ「私の出番だねー」
扉の錠穴のサイズを確かめると、エルザはまた頭髪から針金を取り出してカチャカチャと錠をいじった。ヴァティはその時、エルザの指が6本あることに気づいたが何も口に出さなかった。
エルザ「はいできあがり」
ヴァティ「・・・いい仕事だ」
扉の向こうは、ひらけた空間だった。闇を松明で照らした直後、一同はその光景に目を奪われた。
そこには、巨大な壁画があった。地中の中心から伸びた3本の線が、地上へと繋がっている絵だ。
普段表情を変えないワーグナ博士の眼が、子供のように輝き始める。
博士「おぉ、なんという・・・これが・・・」
ヴァティ「博士、この壁画は何を意味するんです?」
リルマーヤ「ねぇ、床を見て! でっかい魔法陣!?」
照らされた床には複雑な円と線で描かれた巨大な魔法陣らしきものがあった。1つの円に大人が十数人は入れるくらいの大きさだ。文字も刻まれているが、月語とは異なる古代文字らしく、ヴァティ達はもちろん、ワーグナ博士にも読むことはできなかった。
博士「むぅ、これが恐らく、古文書にあった神界へ繋がるという転送魔方陣・・・」
この時代、転送魔方陣は遺跡などで稀に発掘されることがあり、まだ使えるものは主に軍用で使用されていた。
しかし、このような形状の魔法陣は博士も見たことがない。
ヴァティ「神界? では博士、これが・・・僕らが極秘で探していたものなのですね?」
ヴァティには予め、”神界”に関わる調査であることは伝えていた。
博士「うむ。あの壁に描かれているのは3つの古代洞窟。リナーク、フューリエン、カーリアス。そして床にあるのは、その3洞窟と”神界の財宝”へと繋がる転送魔法陣じゃろう」
ヴァティ「神界の、財宝?」
博士「神界の財宝・・・まだ分からんことだらけだが、古代人が封印した神の力の源、と言われておる。それを使えば世界を滅ぼすこともできるとな」
リルマーヤ「世界を滅ぼすほどの力・・・」
その時、ジルドはまたも背後に、先程と同じ気配を感じた。
ジルド「誰だ! やはり、気のせいじゃなかったみたいだな」
???「ふふふ、見つかっちゃった?」
ヴァティ「な! 魔物がしゃべった!?」
???「バカね、私が魔物に見える? ああ、そっか、博士好みの隊長ね」
博士「ほう。お主は確か、クリース家の」
パディナ「お久しぶりです、ワーグナ博士。そして皆さん初めまして、私はパディナ・クリースと申します」
博士「何故ここに・・・」
パディナ「ふふっ。占いでね、”ここに来ると楽しいことがある”って出ましたの」
博士「嘘を付け! まったくどこで情報が漏れたんじゃ」
パディナ「あら、何のこと? またイア様が何か企んでらっしゃるのかしら」
博士「ふん、流石は王都の情報管理官というわけか」
自由都市フラートの政治体制は1枚岩ではなく、大雑把に分けると王派とイア派に分かれている。
パディナは王派、ワーグナ博士はイア派だ。
リルマーヤ「えーと、なんの話?」
博士「まあよい。どうせ帰ったらジィアロス王にも報告せにゃならんかったんじゃ、そっちはお主に任せたぞ」
パディナ「ええ博士、そうさせて頂きます」
リルマーヤ「なになに! 全然わかんないんだけど!」
パディナ「ふふっ、この子も博士好みの戦士ね」
その後、博士と調査団一行は壁画や魔法陣を調べ、細かく書き記した後、フラートへ帰還した。
パディナは護衛の者達を呼び寄せ、まだ遺跡を調べている。
パディナ「……この遺跡、川の流れる音がするのね。この遺跡の外に拠点を造るとして、拠点の名前は・・・川、リーブ、孤島ナーヴル、闇、闇に輝く川・・・そう、グローリーブにしましょう。拠点グローリーブ、うん、良い名前だわ。うふふ、やっぱりこの場所で、何か楽しいことが起こる予感がするわ」
遺跡の拠点グローリーブ。ここから、”神界の財宝”への挑戦が始まろうとしていた。
END.(ゲーム本編へ)
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